宇多田ヒカル『One Last Kiss』

この人は本当にすごい。聞いていたら涙がこらえなくて嗚咽が漏れるほど、心を揺さぶられる。そこまで強い言葉は使っていないのに、喪失感が伝わってくる。

歌詞用に凝縮された言葉ではなく、本当に喪失感を抱えた人間の、むしろ自然な笑顔の多い日常とそれを切り取った控えめな言葉なのだと感じられ、本当の喪失感が伝わってしまうのだと思う。

MVの映像は、自分が死ぬときに思い出す人生の走馬灯だと思う。すべてが愛しい。残るのは自然と日常で仕事ではない。でもその程度の仕事に時間も取られ精神的にも疲弊するちっぽけな人間であることもいとおしい。

部屋のソファ、クッション。悟りを開きたいわけではない。私は欲望や憎しみであふれている、醜い、でも人間ってそうなんだから仕方ない、そんな人間たちが築いた人の世がいとおしい。